「そこに山があるから」とはとある登山家の名言だが、Emu sickSの機動力を感じるバンドとしての活動を見ているとそんな言葉が頭に浮かんだ。何故フェスを開催するのか。何故バンドを続けるのか。大それた野望があるというよりも、シンプルに目の前のやるべきことに真摯に、全力で立ち向かっている、ただそれだけなのだ。それだけ、何ていうと怒られてしまうかもしれないけれど、これって並大抵の人間では出来ないことだと思う。
大学の軽音部でゆるっと結成されたEmu sickSは、涼しい顔をして、でも誠実なぐらい必死で、今年「自らでサーキットフェスを開催する」という山を登る。そんな彼らの強い意志を、彼らの言葉で感じてもらえればと思う。そして彼らはちゃんと知っているし、覚悟を決めている。これが頂上なんかじゃないってことを。「これこそが山頂」という景色を見るまで、登り続けるということを。
16ビートアザラシフェスインタビュー【第2回】
左から、16ビートはやお(ドラム)、まさき(ギター)、大善(ベース&コーラス)、なかじん(ボーカル&ギター)
敢えて言語化はしないけれど、同じ方向を向いている
――これからフェスを経てバンドとして活動を続けていって、少し遠い将来はどんな風になりたいって思っているのか教えてもらえますか?
はやお:バンドとしてめちゃくちゃ有名になるのもいいけど……なんやろうな。
大善:OGRE YOU ASSHOLEの活動の仕方は憧れますよね。ちゃんとメジャーデビューもして、地元長野に帰って好きな音楽をやっているって。
なかじん:僕個人的にはアルカラとかtricotみたいに自分たちでレーベル立ち上げて、自分たちの思うように音楽と関わっているというか。
はやお:裁量あるし、叩き上げ感がすごいよな。
なかじん:それでいてアルカラは地元でネコフェスをやっていたり、tricotみたいにヨーロッパツアーに出たりとか。
大善:好きなようにしたいよな。
まさき:好きなようにしたいから、具体的に言語化は出来ないけど。そういう感じですね。
はやお:そのためには、着実にみんなに支持されるように頑張ろうとか、目の前のことひとつずつ向き合っていこうとか。
まさき:そこは曖昧なんですけどその通りで。ぼやっとそういうことを目指しているんですよね。
はやお:多分、具体的に言語化すると4人の中でもちょっとずつズレがあると思うんですよ。
大善:でもベクトルとして反対ではないから。
――バンドをやっていたら、多かれ少なかれメンバーの仲でズレが生じることってあると思うんですけど、Emu sickSの回避法っていうのはどんな感じなんでしょう?
まさき:ズレが生じるとは言え、進んでいかないといけないですから。
はやお:そんなに細かいズレまで確認していないんじゃないですかね。
大善:その必要性を感じていないかも。ちょっとした言い合いはあっても、あんまりケンカはしないですし。
なかじん:今の言い方ちょっとまずかったかな、って思うときもありますけど……まぁ時間を置いてうやむやにするというか。
はやお:濁していくスタイルですね(笑)
まさき:濁すのが良いのかは分からないですけど(笑)
はやお:くっきりしてしまうと、それが全てになってしまいますからね。
――そういう風に濁すのが4人なりの誠実さのようにも思うし、人間力でもあると思います。お互い色々思っていることはあるかもしれないけど、折角なのでお互いの良いところ、好きなところを教えてもらえませんか?
はやお:(爆笑)
まさき:あ、そういうのもあるんですね(笑)
なかじん:怖い怖い、めっちゃ怖い。
まさき:ない、って言われたらどうしよう。
――「ない」は無しでお願いしますね(笑)じゃあまず16ビートはやおさんの魅力を、まさきさんから。
まさき:ええ……みんなが求めているものをすぐ捉える発想力と、「これ」と思ったらすぐ実行するっていうところですかね。
大善:対外的な作業は彼が一番やっているし、仕事も早いし、彼のおかげでバンドの活動が進んでいるところはありますよね。
なかじん:確かに行動力はありますよね。フェスをするにしてもやっぱり原動力ははやおですから。
はやお:何これ、気持ち悪いな(笑)
大善:あとは「16ビートはやお」としてのキャラを守っていることですよね。
――「16ビートはやお」はEmu sickSのためにやっているって皆んな思っているってことですよね。
大善:そうじゃなかったら続かないと思いますし。キャラばっかりになるのは良くないことですけど、彼の場合バンドの間口を広げるために矢面に立ってやってくれているのが分かるから、僕たちもありがたいと思っていますよね。
――ありがとうございました。次はまさきさんの良いところはどんなところですか?
はやお:怒らないところですね。全然怒らへん。多分刺しても怒らへんのちゃうかな(笑)
まさき:それ物理的に怒れへんから(笑)
大善:居てくれることでバンドのバランスが整っているかな。緩衝材みたいな存在で。あとは、彼が一番色んな音楽を聴いているし、あまり主張はしないけど音楽のこと教えてくれますね。何よりギターに誇りを持っているところですね。
なかじん:僕が考えたギターリフを僕より上手く弾くところが(笑)あとは、人の話を親身に聞いてくれるし、優しいし。
はやお:あとは何を頼んでも断らないし、何とか出来るように考えてくれるところですかね。何をしていてもちゃんと間を取り持ってくれるから、頼り甲斐があるなって思います。
――続いて大善さんはどんな人ですか?
はやお:僕、一番お世話になっているんですよ。リズム隊だからっていうのもそうやし、あとは僕の手が回っていないときに言わずとも助けてくれるというか。去年東京のレコ発は大阪での2枚目のコンピ発のイベントと被っていたんで、東京の企画はほとんど彼がやってくれましたね。
大善:僕が企画したのってそれくらいですけどね。
はやお:あとは、大善が一番文句を言うんですけど、聞いていてスカッとする (笑)
なかじん:暴言の角度と鋭さが100点なんです(笑)
まさき:言い過ぎ!って思うこともありますけど(笑)もう言うことなくなるんでスッキリしますね。あとは遠征のときなんか、段取りをしっかりしてくれるんでベストな状態で挑めるんですよ。縁の下の力持ちですね。
――じゃあ最後に、なかじんさんはどんな存在ですか?
はやお:なかじんは気ぃ遣いやからな。一番真面目で一番頑固だと思います。3人が反対していてもなかじんは突っ走ることがありますね。
――それは作品づくりにおいてですよね?バンドの方向性の話でもですか?
はやお:どっちもですね。
なかじん:良いことは合わせられるけど、嫌なことは合わせられないですから。
はやお:そういう意味では芯が通っているんですけどね。それで実際なかじんが言ったことに合わせて失敗したことはないですから。
なかじん:そうなんですよ……。でも悪いな、とは思っているよ。
はやお:まぁ、そう思っているから憎めないんですよね(笑)もちろん曲づくりに関しては任せていますし。
大善:曲づくりは彼が一番理想が高いし。
なかじん:納得しないんですよ。
まさき:かといって完全なワンマンではないところが彼らしいというか。
大善:頑固やけど気ぃ遣いっていう。
まさき:売れている曲はなぜ売れているのか、構成はどうなっているのか、ちゃんと分析しているんですよね。そういうところも一番音楽と真摯に向き合っていると思うし。それと引き出しが多いというかアレンジ力もすごいです。
大善:単純になかじんのつくる曲がいいなと思います。バンドとして続けていけるのは、やっぱり曲がいいからだと思うし。
まさき:4人の中で一番アーティスト気質だとは思います。
大善:実はギタリストとしてもすごく弾ける方だと思いますしね。でもギターはまさきがフィーチャーされるし、バンドとしてははやおが注目されるし。
なかじん:なぜかはやおが曲をつくっているって言われたこともありますしね……。
――Emu sickSってあんまり普段から4人がベタベタしていないし、あんまり表立って仲良しな感じがしないから一度聞いてみたかったんですけど、やっぱり音楽や活動に反映されている強い信頼関係を感じました。本当にありがとうございます!
まさき:もう二度とこういうことを人前で喋ることはないんじゃないですかね(笑)
大善:ある意味拷問ですね(笑)
バンドをするって、こんなに楽しいことは他にない
――最後に、何故会社員でありながらもバンドを続けていけていると思いますか?
なかじん:ひとつは使える時間があるっていうことですかね。誰かが土日休みじゃなかったらバンドとして進めないし、計画立てていけないというか。モチベーション的な意味だけじゃなく物理的に。
大善:前提としてはそれがあって、あとは気合いと根性でやっているだけですね。
はやお:単純に楽しいもんな。
大善:「何が楽しくてこいつは生きているんだろう」って思う人、会社にはいますもんね。
はやお:(笑)それは思う。
なかじん:身体はボロボロになりますけど、それを上回るぐらい魅力的ですよね、バンドをすることって。
――バンドをやらない人生なんて考えられないですか?
なかじん:なくなったらどうなるか、想像出来ないですよね。
大善:バンドをしたことなかったらそんなこと思わないかもしれないけど、一度やってしまったら戻れないですよね。自分たちのつくった音楽を色んな人が聴いてくれて、色んな人がライブで盛り上がってくれるって、こんな楽しいことないでしょう。
はやお:喜んでくれもすれば文句も言われるし、好きな人も増えれば嫌いな人も増えるけど、それもひっくるめて全部楽しいですよね。まさか自分がステージに立つ人間になるなんて思ってもなかったし。
――バンドをやるって言っても、ライブをすることが前提ですか?スタジオでひたすら作品をつくる、っていうのはちょっと違うんですかね?
まさき:それも楽しいし、いいと思います。でも僕たちの場合やっぱり人と人との繋がりを大切にしているので、それってライブをやってこそ直に感じられるものだと思うので。直接CD買ってもらったり、良かったですって言ってもらえるとすごく嬉しいですよね。
はやお:だから、本当に熱意のある人に呼ばれたら、全国どこであってもライブしに行っちゃいますよね。
――最後に、4人が音楽を続けていける原動力って何なんですかね?
なかじん:やっていく中で次の目標がちゃんと見つかっているっていうのがひとつあるかもしれないですね。
大善:もっと先に行けそうって感じるところもあるし。
まさき:結果が一歩づつ目に見え始めているっていうのもあるんですかね。
はやお:僕たちの前にはナードマグネットっていう先輩もいるし、ウサギバニーボーイもいるし恵まれていると思いますね。だからこそあとはもう馬力をみせるしかないと思っています。やるしかない。
――そんなEmu sickS渾身の『16ビートアザラシフェス』がますます楽しみになりました。ありがとうございました!
【インタビューは第3回は16ビートはやおによるフェス出演バンドの紹介になります…!】